四隅の時間で
タイムマネジメント
■マネジメントレクチャー

「アポイントと開始」


私達の生産性を低下させているものに、水路化現象があった。この現象の恐いところは、それが無意識のうちに、習慣付けられているという点である。

では、こういった現象は、私達の日常業務の中に、どんな形で入り込んでいるのだろうか。

まず、仕事の必須アイテムとなりつつある、スケジュール帳を見てみよう。スケジュール帳に記入されている皆さんの日々のスケジュールは、どうやって決められたものだろうか。また、それらのスケジュールの中に、水路化は起こっていないだろうか。このことを検証するために、日常よく見受けられる情景を、再現してみよう。

さて、今、皆さんのところに、得意先から電話がかかって来たとしよう。「○月○日、お時間ありますでしょうか。」の問いかけに、皆さんは、どう対応するだろうか。大抵の場合、急いで手帳を広げ、その日のページを確認し、うまい具合に空白ならば、「ああ、○日なら、いつでも大丈夫です。」と答えるはずである。すると相手は、「では、10時に伺っても、よろしいでしょうか。」と聞き返す。特に支障がなければ、「はい、10時ですね。わかりました。お待ちしております。」と言って電話を切り、おもむろに白紙のページに「10時 △社□氏来社」等と書き込むことだろう。そして、こんなことを何度か繰り返すうちに、白いページは瞬く間に、真っ黒に埋まっていくのである。

実は、こうしたスケジュールの決め方にも、水路化がしっかり起こっているのである。こんなことを言うと、皆さんは、「自分のスケジュールは、明確な自分の意志によって決めているのだから、水路化など、起こるはずはない。」と反論されるかもしれない。しかし、考えてみていただきたい。今の例一つをとってみても、自分の予定の中でスケジュールを調整している様に見えながら、実は先方からのアポイントによって、言わば一方的にスケジュールが決められていたではないか。この観点から、改めて自分のスケジュール帳を見直してみると、商談しかり、会議しかり、なんと他人本意で決められた予定の多いことか。水路化現象に当てはめて言えば、「自発的な仕事より命令された仕事」を優先してしまっているわけである。これでは、生産性向上のキーワードである「優先順位」も、「開始」も、マネジメントされていないことになる。なぜ「開始」がマネジメントされていないのかと言えば、スケジュールの殆どが、仕事の「期限」だからである。「どういうこと?」とお思いの方は、ちょっと「開始と期限」の節でお話ししたことを、思い出していただきたい。見方を変えると、私達のスケジュールの殆どは、「期限」で埋めつくされているということであった。つまり、今の例で言えば、「10時来社」は、「商談」という他人がらみの仕事の「開始」ではなく、「接客のための準備」という、(他人がらみの仕事のための)「自分の仕事」の「期限」だということである。もっと簡単に言えば、「他人がらみ」の仕事の前には、必ずといっていい程、その仕事のために自分でしなければならない仕事があるはずだということである。そのことを考えずに、相手の言うままにスケジュール帳を埋めていたのでは、準備の時間が足りなくなり、折角相手と会っても成果が期待できないのは、火をみるより明らかである。これでは、数万円もするシステム手帳なり、電子手帳なりを使って、他人のためにスケジュール管理をしている様なものである。では、どうしたらよいのか。

ところで、私達は常に、何等かの「期限」に囲まれて仕事をしている。そのため仕事の段取りも、仕事の納期(期限)から逆算してスケジュールを組んだりしている。そして、その期限に間に合わせるために、きゅうきゅうしながら、日々仕事をしているわけである。

ここで注目しなければならないのは、「期限」には、必ず、「他人」が存在するという点である。なぜなら、相手(他人)と約束したからこそ、「期限」が生じるからである。期限が近づくにつれ、プレッシャーが高まり、ストレスが増大するのも、この「相手」(他人)の存在が、大きく影響している。さして重要でない仕事なのに、さっさとやってしまうまで気分がスッキリしないのも、約束した「相手」(他人)の顔がチラツクからに他ならない。この様に、相手がある仕事=他人がらみの仕事の場合、私達は必然的に、「期限」を意識して仕事をすることになる。それで、期限が近づき、緊急性が増すと、何をおいても、その仕事をやってしまわねばと躍起になる。その結果、重要な仕事を後回しにして、とにかくその仕事に着手する。そして、「重要な仕事よりも急ぎの仕事」という水路にはまり込み、優先順位を誤って、元気の空回りという悪循環を繰り返すことになるのである。

このように、生産性を低下させる要因は、日常茶飯事、どこにでも転がっている。そして、生産性を向上させるためのツールであるスケジュール帳の中に、一番顕著に現れているのは大変皮肉である。

さて、こうした現象を弊社流に言い直せば、私たちの日常は「ちょっと他人中心になりすぎているんじゃありませんか。」…ということになる。私たちの生活は、知らず知らずのうちに他人中心になりすぎて、自分のための時間がなくなってしまっているようである。それで常にスケジュールに追われ、プレッシャーに潰されそうになっているのではないだろうか。

そこで弊社では、この「自分の仕事、自発的な仕事のための時間」のことを「自分の時間」、反対に「他人がらみの仕事、他人とのアポイントの時間」を「他人の時間」と呼び、この二つの「時間」のバランスを取ることこそが「タイムマネジメント」であると説く。そうかんがえると、どうやら私たちの日常は、この二つの「時間」のバランスが崩れ、「他人の時間」が多くなり過ぎているところに問題がありそうである。

こんなことを言うと抽象的すぎて「そんな雲を掴むような問題に、対策の取りようがあるのか?」とお思いかもしれないが、対策は極めて簡単。「自分の時間」をどんどんスケジュール帳の中に落とし込めば良いだけである。そして、その「自分の時間」の合間に、他人とのアポイントを入れて行けばよいだけである。言葉を変えれば、「他人とのアポイント」の前に、まず「自分へのアポイント」を入れてしまうということである。そのためには、手帳も使わず、記憶だけで…というのでは、限界が生じてしまう。タイムマネジメントの本の中で、しきりとシステム手帳なり、電子手帳なりのサポートツールを薦める本当の理由もここにある。(その本の著者がそれを認識しているかどうかは知らないが・・)。

「自分へのアポイント」をスケジュール帳に落とし込み、「自分の時間」を確保することは、水路化を防ぎ、生産性を上げる最も簡単で有効な手段の一つである。


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