5.新しいマネジメントモデル
このように具体的な業務名をさらに概念的に分類すると仕事のしくみ、つまりマネジメントモデルも簡略化されたかたちで捉えることができる。
仕事の要因分析をすれば、業務処理4に対し、情報処理6の割合が平均である。しかし、この割合は上級管理者、経営者になるほど情報処理の割合は高まることになる。
ここでいう情報処理はコミュニケーション(報告、連絡、相談、指示、命令)のことである。
この事実に着目すれば、ホワイトカラーの生産性向上を考える時のポイントも明確になってくる。ホワイトカラーの生産性を左右する要因の6割以上はコミュニケーションにあるということである。
つまり、仕事のスピードを上げるには業務処理のスピードを上げる方向と、コミュニケーションのスピードを上げる方向のふたつしかない。更に仕事の要因の6割がコミュニケーションである事実を認識すれば、図表4のように、仕事のスピードを上げるには、コミュニケーションのスピードを上げる。仕事の量を増やすにはコミュニケーションの量を増やす。仕事の精度(質)を上げるには、コミュニケーションの精度を上げると読み替えるとホワイトカラーの生産性向上対策は漠然とした状態から具体化された状態に近づいたといえる。
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図表4
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仕事とコミュニケーションの関係を明確にすることが
ホワイトカラー生産性向上対策の第一歩 |
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スピード化の時代、注目すべきはコミュニケーション!!
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5−1.ピラミッド型組織からフラット型組織へは本当か
情報化時代が進むにつれ、組織のあり方もいろいろと論議されている。その最たるものは、「ピラミッド型組織からフラット型組織へ」の取り組みだろう。一般的には社内の情報化戦略の旗印的なフレーズとさえなっている。
しかし、本当にそうだろうか?仕事を概念的な要因で分類すると、業務処理と情報処理(コミュニケーション)の二つになる。確かに、情報処理については、ピラミッド型よりフラット型のほうがはるかに効率的であるが、業務処理のほうはどうだろうか?
組織がピラミッド型の形態をとることになった理由は、「一人ではできないので、二人で、二人ではできないので三人で」である。そして、できなかったのは何かといえば、情報処理ではなく、業務処理である。できなかった原因は、「時間がない」と「専門知識がない」のこの二つである。そして、この二つの原因は本質的な改善はされるだろうか、多分当面の間はないだろう。つまり、業務処理のピラミッドは、多少の階層構造のコンパクト化はなされるだろうが、消滅することはない。
そのように考えると、今、企業に求められれているのは、組織をピラミッド型からフラット型にする努力ではなく、業務処理のピラミッドのコンパクト化(役割分担の明確化:部長が部長の仕事をする、課長が課長の仕事をする環境、風土)と、情報処理の新しい体制(一般的にはフラット型になる)の二つを同時に運営する。新しい経営のスタイルである。
5−2.マネジメントモデルは三層構造
仕事を概念的な要因に分類すると情報処理と業務処理の二つになると述べたが、それでは日常業務を遂行するにあたってのスキルで見たらどうなるだろうか?
そのスキルは、図表5のようになると考えてみた。情報処理を支えるスキルは、コミュニケーションと仕事のすすめ方(タイムマネジメント)の二つであり、業務処理を支えるスキルは仕事のすすめ方と専門知識の二つである。
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図表5
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仕事を形づくっているのは、業務処理と情報処理の二つ |
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・ 仕事の内訳は、情報処理6に対し、業務処理4の割合が平均
・ 管理者、経営者になるほど、情報処理の内容は増大する
・ 情報処理と業務処理を支えるスキル(技術)はコミュニケーション、仕事のすすめ方、専門知識の三つ
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このように考えると、仕事を処理するための基本モデル(マネジメントモデル)の姿が明解になってくる。それは図表6のようなイメージで捉えることができる。一層目はコミュニケーションで、2層目は仕事のすすめ方、三層目は専門知識というモデルである。一層目、2層目は、業種、業態、規模にかかわらず、全ての組織に共通にあてはまるものであり、三層目がその組織のオリジナリティが明確になる部分といえる。
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図表6
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マネジメントモデルが強い組織と個人をつくる |
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・ 三つのスキルの土台をなすのは、コミュニケーション
・ 最近はやりのナレッジマネジメントは、3層目
・ コミュニケーション、仕事のすすめ方がしっかりしていないと、ナレッジマネジメントは機能しない
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一層目のコミュニケーションは、仕事の6割以上に影響が出る極めて重要な要素である。建物にたとえれば土台、基礎部分にあたる。ここが、しっかりしていないと、建物(会社、組織)は、脆弱なものとなる。
二層目の仕事の進め方は、情報処理と業務処理を一体化させるための重要な役割を持っている。
三層目の専門知識は、いわばナレッジマネジメントに関わる部分である。
このようにマネジメントモデルを捉えると、ITの導入でナレッジマネジメントを導入しようという動きは間違いではないが、その前に、ITの導入は、コミュニケーションと仕事の進め方の部分にこそ行なうべきといえる。 |