<仕事を解剖してみよう> 解説33 |
リーダーしよう研修では、仕事を「目標達成のための、自分と他人との共同作業」と定義しました。 しかし皆さんの中には「そんなことはない、ひとりでやる仕事だってある」と反論する人もいるでしょう。例えば、業務日報などを例に挙げて。確かに日報を書くのは、“自分ひとりでやる仕事”です。しかし日報という仕事は、ただ書かれただけでは完結しません。日報を上司が読み、内容によっては書いた本人に新たに指示したり、新たな営業戦略立案の糧になったりと、何らかの形で次の仕事にフィードバックされて始めて、日報という仕事の目的が達成されたことになるのです。 日報という仕事の主体は“自分”ですが、自分の好き勝手に何をどう書いても良いというものではない。上司という他人が読むゆえに、他人が読みやすい字で書き、他人が読みやすいように決まった書式で書き、他人と理解しあえるように何を書くかも決められている。つまり、他人との共同作業なのです。 また仕事には、主体が自分だけではない、“他人と共同でやる仕事”もあります。会議や打ち合わせ、お客さんとの商談などが、それです。この2つの仕事は双方向的、双補完的な関係にあります。報告書や企画書といった、自分ひとりでやる仕事は、会議や商談という、他人と共同でやる仕事のための準備という要素もあります。その会議や商談はさらに、次の日報や提案書という、自分ひとりでやる仕事の材料ともなります。 すべての仕事には、自分以外の“他人”が関わっています。そして仕事の種類によって、他人の関わり方が違ってくるのです。営業マンが自社の都合を押し付けるだけでは、お客さんとの商談はうまくいかない。相手の要望を聞き、時には相手の都合を尊重しなくては、双方が納得する接点が見つけられないこともある。つまり、自分と他人とのバランスをいかに上手にとるかが、重要なのです。 |
<もう一度、仕事を解剖してみよう> 解説34 |
皆さんは日々、情報処理(コミュニケーション)と業務処理をこなすことで、仕事を遂行しています。 例えば、企画書を作成する場面を想像して下さい。本部の「〇〇の企画書を頼むよ」との指示で仕事が始まります。これは情報の入手です。次いで企画書を書き上げますが、これが業務処理です。書き上げるまで、上司との間で進捗状況や内容の確認などの情報交換と業務処理が行われ、最後に「終わりました」という本部への情報の発信で仕事が完了します。情報処理と業務処理によってひとつの仕事が完了するという仕組みは、会議でも書類づくりでも、どんな仕事にも共通するものです。 業務処理に必要なスキルは、仕事の進め方の知識と、専門知識の2つです。仕事の進め方の知識とは、仕事のさまざまな仕組みを考察する中から導き出したものです。社長にも一般社員にも、営業マンでも経理担当者にも、共通して必要となる知識です。そして専門知識とは、社長や部長など、あるいは営業マンや経理担当者など、それぞれの役職や職種の仕事をするのに必要な、その分野に特有の知識です。 3つのスキルの関係は、パソコン・システムのアプリケーションとOSの関係に例えるとわかりやすいでしょう。ワープロのアプリケーションを搭載すれば、パソコンはワープロになってくれますし、ゲームソフトを搭載すれば、ゲーム機になってくれる。このアプリケーションに相当するのが、専門知識です。営業の専門知識を身につければ、営業マンの仕事ができます。しかし、アプリケーションだけでは、コンピュータは動きません。いろんなアプリケーションに対応してパソコンを稼動させる、OSを搭載して初めて、パソコンは有効に稼動するのです。このOSに相当するのが、仕事の進め方の知識とコミュニケーションスキルです。 |
<3つのスキルと個人と組織> 解説35 |
優先順位の手法、仕事の“開始”のマネジメントなどは、すべて仕事の進め方の知識です。そして皆さんが、この仕事の進め方の知識と専門知識、コミュニケーションスキルを自家薬籠中のものとした時、生産性は飛躍的に向上するでしょう。 皆さんの中には、「自分ひとりが頑張ったって、金庫そのものが変わらなければ、何も変わらない」と考える人がいるかも知れません。従来のマネジメントは、組織論的なアプローチのみでした。経営トップの方針をいかに組織に徹底させ、その方針に沿った目標の設定と管理をいかに行うかが、マネジメントの主眼とされていたのです。こうしたマネジメントの下では、個人は組織という大きな歯車を回すために、懸命に回り続ける小さな歯車でしかない。小さな歯車が多少動いたところで、大きな歯車がどれほど動こうか。 しかし、本マニュアルが考えるマネジメントは、個々の職員からの意識を吸い上げ、情報やノウハウを収集し、さらに個々の職員に還元する中で、金庫の進むべき方向性を提示するものなのです。こうしたマネジメントの下では、2つの歯車の関係は位相を変え、職員が変わるだけで、金庫をも変革させうる関係となるのです。 職員が変わり、金庫が変わるためには、それぞれの役割分担があります。専門知識の修得は個人が果たすべき役割ですが、その修得が容易にできるよう、多種多様な専門知識を集積しておくのが組織の役割となります。仕事の進め方の知識、コミュニケーション・スキルの修得も職員の役割ですが、その知識を金庫ルールとし、金庫全体に共通の仕事の進め方が実現できるようにし、IT化を進めてコミュニケーションの円滑化を図るなど、環境整備するのが組織の役割です。 |
<仕事のすすめ方のルール作り> 解説36 |
一つのルールがある組織に長期間定着すると、それはルールではなく、文化、風土となります。 限られた時間のなかで、いかに上手に、いかに多くを処理するかの共通の技術をチーム、組織で共有する(ルールにする)ことは、単にチーム、組織の生産性を向上させるだけでなく、チームカラー、社風として次世代に引き継がれることを意味しています。 では、このルールづくりとその定着はどのように行なえば良いのでしょうか? 作業のステップは3つあります。まず最初は、現状の仕事のすすめ方を把握し、長所、短所を整理すること。次に仕事のすすめ方の原理・原則(本書の内容)を理解すること。最後に、現状と原理・原則からチーム全体、組織全体で取り組むべき具体的方法を特定し、OJTで定着をはかることです。 弊社では、個人、組織の仕事のすすめ方の診断もさせていただいています。ある種クセのようなところもあるので、自分自身で仕事のすすめ方の長所、短所を特定するのは難しいところもあります。 最後のOJTについては欲張らず、期間を定めて、1つずつ着実に定着させて行くことが大事です。具体的な手法が1つでも定着すると、生産性は、それ以前と比較すると、確実に向上しているはずです。 このルールの策定と定着は、リーダーの重要な役目です。毎週1つのテーマを取り上げて実施すれば、年間で50を越える新しいスキルが身につき、定着します。その時、新しい神話、伝説がはじまることになると思います。 |
<自分の思いを数字に置き換える> 解説37 |
目標の設定―それは自分の思いを具体化することです。あるいは、自分の思いを数字に置き換えることだとも言えます。 支店目標は、その支店のあらゆるビジネスの現場で、コミュニケーションの成否を左右する鍵となります。そして、有効なコミュニケーションを成立させるには、“主観”と“客観”の2つの要素をバランスよく包含させなければならないことは、すでに皆さんは理解しているはずです。 “主観”は、目標を策定する人の思いであり、支店目標には、それを策定する支店長の思いが繁栄されていなければなりません。支店を大きくしたい、職員に豊かな生活を送ってもらいたいという、支店長の思いを目標に表現しなければならないのです。“客観”は、その支店長の思いを、支店長の誰もが共通して認識できる数字など、具体的な表現に置き換えたものです。 表現すべき主観と客観とは、簡単に言うと「社員が豊かな生活ができるように、会社を大きくしたい。そのために当面の目標として、株式を店頭公開するくらいにはしたい。そこで5年計画の1年目の今期は、経常利益の2割アップを目標とする」との文言になります。「社員が豊かな生活ができるように会社を大きくしたい」というだけでは、具体的に何をすべきか、社員はイメージできない。「2割の業績アップを目指せ」と言われるだけでは、何故目指さなければならないのか理解できず、モチベーションも確保できない。 これは、全社的な目標だけではなく、部の目標、個人の目標でも同様です。皆さんが、「今日はいい仕事をしたい」と願うのは大切なことですが、ただ願うだけではなく、「5人以上の新規の顧客にセールスする」とか、「10件以上の得意先を訪問する」といったように、「いい仕事」を数字に置き換えて目標としなければ、「いい仕事をしたい」という思いは、実現できないのです。 |
<チームデベロップの基本スキル> 解説38 |
どこでも、どんな時でも成果が出せるチーム、組織をつくるには、2つの作業をしなければなりません。1つは、構成員である一人一人の個人の力量を上げること。もう1つは、一人一人の力量を充分に発揮できるチーム、組織の環境づくりです。そして、この作業をするのがリーダーの役目ということになります。 それでは、一人一人の力量を向上させる作業とは、どんな作業でしょうか?皆さんは、既におわかりだろうと思います。そうです。コミュニケーション能力、仕事のすすめ方の技術、そして専門知識の修得です。 一方、環境づくりとは、どんな作業でしょうか?もうおわかりだと思いますが、コミュニケーションの環境とルールづくり、仕事のすすめ方のルールづくり、専門知識の蓄積方法のルールづくりです。 つまり、コミュニケーション、仕事のすすめ方、専門知識(ノウハウ)の3つの分野をチーム員個々とチームそのものが、6つの作業項目として取り組むということです。この6つがしっかりできていると、いつでも、どこでも成果を上げることができます。 この6つの作業項目が大切であることがわかれば、現状のチームがどうなるのかと、どの項目を強化すべきかもわかってきます。 マニュアルのようなチャートで、把握すれば、わかりやすいと思います。 この考え方をもとに実務の面で、着手すべきは、3つあります。1つは、仕事の委任、もう1つは打ち合わせ、会議、そして最後が上司、部下の同行営業等のOJTです。この3つがスムーズに実行できるように、先の6項目に取り組むことが、いつでも、どこでも成果の出せるチームに近づく王道ということになります。 |
<二つの情報> 解説39 |
日々、ビジネスの現場で行なわれるコミュニケーションにおいて、様々な情報が交わされています。実は、これらの情報は二つの種類にわけられます。支店長しよう研修では、この2つを戦略情報と戦術情報と称しました。 戦略情報とは、組織の中でトップダウンで伝えられる情報であり、その内容は目標や指示などです。例えば、金庫全体的に見れば、経営方針や、今期の経営目標、あるいはその方針・目標に基づいた、各部への経営陣からの指示などです。 また、ひとつの支店や課など、チームのレベルで見れば、支店としての今期の目標や、支店長から職員への指示などです。この戦略情報は、チームのメンバーを動かし、力を発揮させるための動機付けを目的に、伝えられます。ですから、社員のやる気を左右する情報なのです。 もうひとつの戦術情報とは、トップダウン以外の形で伝えられる情報です。ボトムアップで伝えられる情報、あるいは一般職員同士、課長同士、支店長同士など、上下の関係ではなく、横の関係でやり取りされる情報です。 その内容を簡単に表現すれば、「どのように仕事をやろうか」ということを伝えるものです。例えば、前月比で3割増というチームの目標を達成するため、あるメンバーの目標額はいくら、別のメンバーはいくらといった、チーム内でやり取りされるのが戦術情報です。また、支店が目標を達成するため、支店と営推部長が販売促進活動の強化を話し合うのも、戦術情報の交換です。得意先係が、得意先の担当者と交わす商談内容も、戦術情報となります。 つまり戦術情報とは、仕事をうまく進めることを目的に、職員間で伝えられる情報なのです。ですから、メンバー一人ひとりの、仕事のスキルに関わる情報なのです。 |