<仕事の70%以上はコミュニケーション業務> 解説04 |
仕事には、”自分一人でやる仕事”と”他人と共同でやる仕事”があります。ひとりでやる仕事として皆さんは、書類作りや、パソコンでのデータ処理及び分析、部下が提出した書類のチェックなどを思い浮かべるでしょう。これらの仕事を一言で表現すれば、業務処理となります。一方、他人と共同でやる仕事とは、会議や商談、ミーティング、電話連絡などですが、これらを一言で括れば、情報処理(コミュニケーション業務)であると言えます。
それでは、皆さんは自分が一日のうち、2つの仕事をどれくらいの比率で行なっていると思いますか。今回のマニュアル作成作業での支店長のデータでは、業務処理が3割、コミュニケーション業務が7割となっています。この比率は役職によって違います。階層が上になり、部下が増える程、仕事の指示や委任などが増え、上司と部下の間で情報の中継役ともなる役割を思えば、コミュニケーション業務の比率が高くなるのは、当然です。 皆さんが自分の仕事を全うしたいと思うのなら、仕事の7割以上を占めるコミュニケーション業務の重要性にまず、着目してほしいのです。この第2部ではコミュニケーションのスキルについて、若干ながら言及するつもりです。 |
<コミュニケーションて何だ?> 解説05 |
情報処理には、大別して次の3つがあります。すなわち、情報の収集と、情報の加工、情報の発信です。 情報の収集とは、具体的には新聞や本などの資料を読む、お客さんや同僚と会話をすることです。この時、皆さんが利用するスキルは、「読む」と「聞く」の2つです。情報の加工とは、収集した情報を取捨選択し、組み合わせて、新たな情報を作り上げることで、企画や提案をまとめる作業がそれです。そのためのスキルが、「考える」や「書く」などです。そして情報の発信は、自分の考えや意見を部下に伝える、取引先に伝えるという行為です。例えば企画書の説明、仕事の委任、商談などであり、必要なスキルは「話す」と「書く」となります。以上、収集と加工、発信の3つが、コミュニケーションを実現するために必要な作業なのです。 では、何のためにコミュニケーションをするのか? 会議や商談で何故、コミュニケーションが大切なのか? 会議の目的は、支店の方針を職員全員に伝え、その方針に基づいて行動するよう、確認することです。商談の目的は、顧客に自社の提案を示し、理解を得ることですし、企画書の目的は自分のアイディアを披露し、理解してもらうことです。ま、これは言い換えれば、自分を知ってもらう(知っていただく)こと、他人を動かす(動いていただく)ことなのです。会議で方針を伝えるのも、支店長の考えをメンバーに知ってもらうことですし、自社の提案を理解してもらうのは、提案者である自分(自社)の考えを理解してもらうこと、つまり自分を知ってもらうことなのです。 私のトレーニングコースを思い出してください。仕事とは”自分と他人との共同作業”であると言いましたが、共同作業だからこそ、他人に自分を知ってもらう、他人を動かすことが大切なのは、言うでもないことです。そのためにもコミュニケーションの重要さを認識してほしいのです。 |
<コミュニケーションて何だ?(2)> 解説06 |
コミュニケーションの目的は、自分を知ってもらうこと、他人を動かすことだと、前に説明しました。では、その目的を達成するためには、何を伝えたらいいのか。それは主観と客観です。主観とは、情報の発信者である皆さんの思い、考えなどですし、客観とは具体的な数字や事実です。この2つの要素をバランス良く伝えることで、良好なコミュニケーションを実現できるのです。 例えば、皆さんが営業会議で自分の方針を職員に伝える時、「今月の営業目標は前月比3割増だ」と言うだけでは、職員は動いてくれないでしょう。何故、3割増なのかがわからなければ、職員は目標の設定に納得できないし、納得できなければ行動できません。この「何故?」を表現するのが、皆さんの思いや考えなどの主観なのです。 逆に主観だけ伝えても、具体的な数字目標が伝えられず、ただ「頑張ってくれよ」とか、「頼んだよ」としか言えなければ、やはり職員は動いてくれません。自分を知ってもらい、他人を動かすためには、主観と客観の両方を伝えなければならないのです。 ところが、とかく日本人は自分の主観を口にするのを嫌います。だから、数字目標だけを言いっ放しにしてしまいがちです。その反面、他人の主観を気にし、その主観に敏感に反応してしまう傾向も強い。するとどうなるか。職員の方では、「支店長は俺の事が嫌いなんじゃないか」とか、「支店長は俺の事を頼りにならん奴だとボヤいていたそうだが、だから厳しい目標を押し付けるんだ」と、憶測で相手の主観を補おうとします。こうなると、ありもしない主観が部下の行動を縛り、数字目標という客観的事実がなおざりになってしまう。こんなケースが頻繁に起きているのが、現実のビジネスの現場なのです。もし主観と客観をバランスをバランスよく伝えることができれば、皆さんの仕事の成果が飛躍的に改善されるのですが・・・。 |
<目標はコミュニケーション?> 解説07 |
東京にある、従業員400人という中堅どころの中小企業、株式会社「武蔵野」は、この不況下にあっても、次々と大きな成果を挙げている企業です。実はこの武蔵野、半期に一度、社長自ら会社の目標を直接、全社員に向けて発表しています。また、社長は自らの手で目標を策定するため、半月もの間、山籠りをするというほど、これは武蔵野にとって大事な行事となっています。 これまでこのマニュアルで、ビジネスにおけるコミュニケーションの重要さを何度も説いてきました。実は、ビジネス・コミュニケーションの出発点となるのが、この目標なのです。支店長から職員への意志伝達も、職員同士の打ち合わせも、得意先との商談も、ビジネスにおけるすべてのコミュニケーションの成否が、会社の目標が明確になっているかどうかに左右される。逆に、目標が明確になっていなければ、有効なコミュニケーションは成立しないのです。何を成すべきかが明確でなければ、何を伝えるかが明確にできないのも、いわば当然のことです。 これは、金庫全体のレベルだけではなく、支店や課のレベル、あるいは個人レベルでも同様です。支店としての目標、個人としての目標が明確に意識できていなければ、有効なコミュニケーションは成立しません。例えば、支店としての営業目標が前月比1割増であり、それを達成するために自分に割り当てられた、新規顧客の開拓3件という目標が把握できていない得意先係が、訪問先で有効なセールストークができるはずがなく、上司や同僚から有効なアドバイスが得られるはずがない。社内コミュニケーションの円滑化―多くの企業がパソコンや携帯端末などのツールや、情報伝達のフラット化などの制度を導入して実現しようとしながら、満足できる結果を得られないのは、ビジネス・コミュニケーションの出発点を理解していないからなのです。 |
<今を変える目標設定法> 解説08 |
思いを数値化(具体化)するのが、目標の設定です。では、どうやって具体化すればいいのか?この節と次節で、2つの手法を紹介しましょう。 まずひとつめが、改善型の目標設定法です。これは、昨日の自分よりも今日の自分、今日の自分よりも明日の自分と、少しでもランクアップし続けようという発想の手法です。まず、今の自分をしっかりと見つめ、長所と短所を把握するところから始めます。長所を少しでも伸していく。短所をひとつずつでも解消していく。そのための目標設定というわけです。 手始めとして、マニュアルで紹介したワークスタイルのシートを利用するのも良いでしょう。これは、今の自分をしっかりと把握し、長所と短所を認識するためのものでもあります。タイプA、タイプBのいずれも、それぞれに特徴的な長所と短所を列挙してあります。それをひとつずつ、目標として設定する。あるいは、タイプA、タイプBとも、どちらが良い、悪いというものではないが、いずれかにあまりにも片寄ったスタイルは、やはり問題です。ですから、例えばウルトラAという人は、ひとつでもタイプBの特徴を身に付けるように目標設定するのも、効果的です。 また、長所を伸すのか、短所を改善するのか、いずれを優先すべきか?それは、皆さんの仕事の調子によって判断すべきでしょう。仕事がうまくいっている時は、えてして慢心が生まれ、思わぬチョンボをしてしまうことがあるものです。それを防ぐためにも、短所の改善を目標として方がいい。逆に、仕事がうまくいかない時には、ついつい短所に目がいきがちです。しかし、落ち込んでいるときこそ、自分の長所に目を向け、自分の良さを伸すことを心掛けるべきでしょう。今の自分よりもワンランクアップ――これが改善型の目標設定です。 |
<夢を実現する目標設定法> 解説09 |
もうひとつの手法は、変革型の目標設定法です。改善型が、今の自分を把握することが出発点であったのに対し、こちらは自分の将来の姿が出発点となります。まず、大金持ちになりたいとか、役員になりたい、日本一のセールスマンになりたいなど、自分が将来、こうありたいという姿を想定します。 次いで、それを実現するには何が必要かを考える。いわば実行分野を設定するのです。日本一のセールスマンを目指すのなら、営業トークを身に付ける、商品理解力を深めるなど、少なくとも2つ、多くとも8つの分野をきめる。次のステップでは、選択した実行分野の目標を設定する。身に付けるべきセールストークの実行目標として、どんな客でも説得できるセールストークという目標を設定します。 そこからさらにブレークダウンをくり返し、具体的な行動計画を、段階を経ながらたてていきます。まずは自分が苦手とする押しの強いトークを身に付ける、そのために部長のトークを真似る、さらに自分のチームのトップセールスマンのトークを自分のものにするというように、目標を設定しながら、現在の自分に近付けていく。 また、得意先の担当者の中で、いつもうまくトークできるタイプを相手に、さらに上手にトークするには何が必要かを見極め、その手法を身につけることを目標とする。あるいは、苦手なタイプを相手にするのに必要なものを、次の目標とする。 こうして、徐々にブレイクダウンして、今の自分に近付けていく。一見すれば、夢物語のような将来像が、今の自分の姿と、確実に目に見える線として繋がっている。それが実感できるのが、この変革型の目標設定法なのです。 |
<具体的でないと誰も動けない> 解説10 |
いくら立派な言葉で目標を掲げても、実現できずに、絵に書いたモチで終わっては、意味がない。実現するのに最も重要なことは、その目標がリアルで、具体的だということです。仕事は、自分と他人との共同作業です。自分ひとりだけではなく、他人にも動いてもらわなければならない。その際、目標が具体的であれば、仕事相手も動きやすい。抽象的な美辞麗句では、誰も動いてはくれません。相手を動かす、あるいは動いてもらうには、コミュニケーションが大切な手段であることは、すでに説明しましたが、そのコミュニケーションの基本が、目標なのです。 では、具体的な目標を立てるには、どうしたらいいのか?それは、生産性の方程式の3要素、投下時間と質、量を明確にすることで可能となります。仕事の期限がはっきりしていないと、行動計画が立てられない。同様に、どのくらいのレベルの仕事を、どのくらい多くやるのかがわからなければ、行動しようがない。あるいは、「とにかくやってみようじゃないか」と、行動を起すことはできたとしても、その結果を評価することは不可能です。目標による管理を導入している企業が昨今、増えていますが、私のコンサルティングの経験から言わせてもらえれば、せっかくの試みもうまく機能していないケースが意外と多い。それというのも、生産性の方程式の3要素という、目標づくりの基本を見落としているからなのです。 投下時間と質、量は、自分だけではなく、他人を動かす、あるいは他人に動いてもらうための、基本の要素であり、これを目標に取り込むことで、目標を具体化し、その目標を基に行動計画をたてる。この一連の作業は、皆さんの仕事の成果、生産性を左右する、いわば大仕事なのです。 |
<うん、そうだね> 解説11 |
仕事が“目標達成のための他人との共同作業”である以上、その仕事の生産性を高めるのに、人間関係の構築が重要な課題となります。その手段が、コミュニケーションです。 コミュニケーションの目的は、お互いを理解しあうことです。そのためには、情報のキャッチボールが必要なのです。言いっぱなし、聞きっぱなしではなく、言ったり聞いたりのやり取りなくして、理解し合えない。そのキャッチボールを実現するには、まず相手を受け入れることが、出発点となります。それが、「うん、そうだね」の一言なのです。 例えば、部下が何か相談を持ちかけてきた時、ほとんどの管理職は、こうしろ、ああしろと、対応を指示します。解決策を提示するのが、管理職としてのアイデンティティであると、認識しているからです。ところが実際には、言われた部下は「そんなこと、言われなくてもわかってる」と、反発することの方が多い。というのも、部下が相談を持ちかけるのは、「自分は今、大変なんだ」ということを上司に知ってもらいたいだけ、というケースが多いのです。それをわからずに開口一番、あれをしろと言うのでは、部下は反発するし、その部下に対して上司も「反抗的な奴だ」という感情を持ってしまう。お互いの意識のずれは、コミュニケーションを試みる程、大きくなってしまうのです。 一昨年の支店長研修である支店長が、こんな話をしてくれました。「苦労して書き上げた稟議書を、本部の奴にいきなり『ダメだよ、これじゃ』と言われて、腹が立った。『苦労して書いたんでしょうね。ところで……』と言われるなら、こちらも素直に聞けるんだが。でも、考えてみると、自分も部下に対して同じように接したことがあったと思う」。 まず、「うん、そうだな。大変なのは良くわかるよ」と、相手を認めるところから、人間関係を築いてもらいたいものです。 |
<アクティブヒアリングのすすめ> 解説12 |
心理療法やカウンセリングで、最も基本的かつ重要な行為とされているのが、「聞く」ということです。しかも、ただ聞けばいいというのではなく、積極的に聞くというスキルが、療法士やカウンセラーの絶対条件とされています。そのスキルとは、相談者に肯定的配慮を示し(相手を受け入れる)、気持ちを楽にさせる、共感的に理解する(相手の立場で考える)、相手の言葉をくり返して、言いたいことや感情を明確にする、相手が自発的に問題解決に向かうよう促すなどです。 このスキルは、実はビジネスにおいても有効ですし、特にリーダーにとっては、チームの生産性向上を実現するための、極めて有益なスキルなのです。ビジネスにおけるアクティブヒアリングでは、4つのポイントがあり、1つ目は、すでに説明しましたが、「うん、そうだね」の言葉で、相手の立場や状況を理解していると伝えること。 2つ目は、相手が楽に話ができるように配慮すること。例えば、話もそこそこに「〇〇すればいいじゃないか」「君は〇〇だから、成績が伸びないんだ」と、自分の意見を押し付けたりしない。 3つ目は、話を導いてあげること。自分の立場を説明する余り、話が進まない、脇道に逸れてしまうことも、よくあります。「その後は、どうするの」「さっきの〇〇の問題は、これからどうなるの」などと質問、奨励の言葉を入れて、話を進め、修正する必要があります。 4つ目は、具体的に聞くこと。相手に気を使う余り、「調子はどう?」などと、曖昧に聞く、もしくは曖昧にしかきけない人が、実際には多いものです。これでは、課題・改善点を自覚し、その解決法に向き合うことができません。御近所同士の挨拶なら、これでも結構でしょうが、ビジネス・コミュニケーションの目的は、目標を達成するために共通認識を実現することなのです。言いっぱなし、聞きっぱなしでは、コミュニケーションにはなりません。 |
<日本語なのに通じない?!> 解説13 |
支店長の皆さんも、「同じ日本語で話してるはずなのに、この人とはどうも話が噛み合わない」とか、「あの会社の人とは、うまく意志の疎通ができない」などの経験をしたことがあるはずです。 同じ言葉を、それぞれが違った意味で使っている、あるいは同じ意味のことを、違う言葉で表現している、そんなことがビジネスの現場でも珍しくありません。同じ書類のことを、一般の職員は「企画書」と言い、支店長は「提案書」と言うとか。人によって、あるいは組織によって、言葉の使い方が違うため、相手に言いたいことが伝わらないのです。 「同じ日本語」なのに、実は「違う日本語」という、奇妙なことが生じてしまうのは、ひとつには経験の違いによって、もうひとつは組織のルールによって、言葉の使い方が違うからです。経験の違いから、山田語や鈴木語が生まれ、組織のルールや社風、文化の違いから、トヨタ語や日産語、ホンダ語が生まれるのです。 言葉遣いの違いから生じる、コミュニケーションの混乱を防ぐためには、まずチーム内、組織内で、言葉のルールを作ることです。提案書と企画書は同じなのか、違うのか。営業報告書と営業日報は同じなのか、違うのか。同じなら、どちらかの言葉で統一し、違うのなら、その違いを明確にする。 また、他社の人間とコミュニケーションする時には、「同じ日本語なんだから、通じるのは当たり前」という考えを捨て、「同じ日本語でも、通じないのが当たり前」という発想を持つことです。例えば、商談相手が外国人であれば、言葉が通じないかもしれないからと、身ぶり手ぶりを交えたり、表やグラフ、絵などのビジュアルの資料を予め用意するなど、工夫を凝らすはずです。日本人相手であっても、同じように身構えて、「この言葉は、こういう意味で言っております」と、わかりやすく説明する姿勢を持つことです。 |
<4つの基本スキル> 解説14 |
皆さんは、他人とコミュニケーションをとろうとする際、4つのスキルを使っているはずです。すなわち、「聞く」「話す」「読む」「書く」の4つです。 ちなみに、4つのスキルの中で最も易しいスキルが「聞く」であり、次いで「話す」「読む」と続き、最も難しいのが「書く」です。これは、我々が生を受けてから、どんな順番で4つのスキルを身に付けたのかを考えてみれば、容易に理解できるでしょう。最初に「書く」ことを修得した人はいないはず。まず言葉を覚え、成長するにつれ、言葉を話すようになり、文字を覚え、最後に文章での表現ができるようになったはずです。 ところで、ビジネスの現場で4つのスキルが、それぞれどんな頻度で使われているのか、皆さんは、すでにご存知のはずです。支店長しよう研修でお伝えしたデータでは、ひとりのビジネスマンが1日に行なうコミュニケーションの中で、「聞く」を使っている時間が45%、「話す」が30%、「読む」が15%、「書く」が10%でした。 つまり、皆さんは最も易しい2つのスキルによって、コミュニケーションの大半を行っているのです。本来は、情報の種類によって、それぞれ伝えやすいスキルもあれば、伝えにくいスキルもあるのですが、その使い分けができていないというのが、現状です。 さらに言えば、「阿吽の呼吸」という習慣の残る日本のビジネスマンは、一般的にコミュニケーションのスキルが未熟です。このスキルは、チーム・コントロールの要となるものですから、このスキルが身に付いてるかどうかが、管理職としての優劣を左右すると言っても、過言ではありません。ところが、「聞く」に長けてる管理職は少なく、「話す」に長けてる管理職は、さらに少ない。 管理職ともなれば、コミュニケーション・スキルを磨く努力をしてほしいものです。その要点が、マニュアルに挙げたゴールデン・ルールです。 |
<音声情報と文字情報> 解説15 |
4つのコミュニケーション・スキルのうち、「聞く」と「話す」の2つでやり取りされるのが音声情報で、「読む」と「書く」で伝えられるのが文字情報です。 実際のビジネスの現場においては、会議や打ち合わせ、電話連絡、ボイスメールでのメッセージなどで交わされているのが、音声情報です。また、報告書や決算書などの各種資料や、Eメールで伝えられるのが文字情報です。ちなみに、皆さんが毎日やり取りしている情報のうち、75%が音声情報ですし、25%が文字情報です。 音声情報は「記憶性」が高く、文字情報は「記録性」が高いという違いがあります。目に見える形で残される文字情報の記録性が高いのは、いわば当然です。一方、音声情報は記憶性が高いというのは、言葉だけではなく、ニュアンスをも伝えるからです。例えば、支店長が会議の場で「当支店の今月の実績は、◯◯だった」と言う時、言外のニュアンスが情報の受け手に伝わるのです。「支店長は怒っているようだ」「支店長は喜んでいるぞ」という、言外の情報が受け手の記憶に訴えかけるのです。 また、良好なコミュニケーションを実現するためには、発信者の主観的な思いや考えと、客観的な数字や事実という、2つの要素を伝えなければならないと、すでに説明しましたが、音声情報は主観を、文字情報は客観を伝えやすいという、それぞれの特徴があります。ですから、会議や打ち合わせの時に、音声情報を伝えるだけでは、客観的な要素が伝わりにくいのです。「会議でメンバー全員の共通認識ができたと思っていたのに、いざ行動してみると、方針が徹底されていなかった」などという事態が生じてしまうのも、音声情報だけに頼ってしまっていることに一因があるのです。音声だけじゃなく、資料やパワーポイントを利用するなど、いわばマルチメディアでコミュニケーションを行えるような、環境づくりも大切なことです。 |
<主観と客観を明確にする> 解説16 |
タイトルを見て、「えらく哲学的だ」と警戒した支店長さんもいるかも知れませんが、大して難しい話ではありません。 これまで何度か仕事の”質”と”量”について言及しました。しかし、皆さんは私が言う「仕事の質」を具体的にイメージしにくかったはずです。それもそのはず、質が高いとか、低いとかは、自分にしかわからないもの、つまり主観的なものだからです。反面、「仕事の量」については、例えば報告書の分量とか、営業件数とか、容易にイメージできたはずです。イメージしやすいのは、数字などで表現できる、客観的なものだからです。主観的なものは他人との共通理解が難しく、客観的なものは共通理解が容易なのです。 さて、これからが本題。どんな仕事も、主観と客観の2面性をあわせ持っています。例えば、3時からの会議に持ち寄る資料の作成という仕事を考えてみて下さい。資料作成の期限は、もちろん3時です。これは会議のメンバー全員が共通認識していること、つまり客観的な面です。では、資料作成を始めるのは何時か。これを共通理解するのは不可能です。何故なら、いつ始めるかは、ひとり一人が自分できめる、主観的なものなのです。 仕事の主観的な面とは、個人に委ねられるものであり、個性とも言えます。だからこそ、上司であれ、同僚であれ、他人が干渉できないし、もし干渉しようとすれば、モチベーションの低下といった弊害も起こり得る。誰でも少年時代に経験があるはずです。母親に「勉強しなさい」と言われ、「テレビを見たらやろうと思ってたのに、やる気がなくなった」と答えた経験が。半分は言い訳ですが、自主性を阻害されてモチベーションが下がってしまったのも事実だったでしょう。 ともかく、すべての仕事には他人と共通理解、合意形成が可能な客観的側面と、個人にしかコントロールできない主観的側面とが存在していることを、理解しておいて下さい。 |
<プレゼンテーションの基本> 解説17 |
コミュニケーションスキルの中でも、とりわけプレゼンテーションの技術は重要です。 仕事が自分と他人の共同作業ですから、自分の意見を相手に伝え、同意していただき、動いていただくことは、仕事の成果に直結する技術ともいえます。 つまり、プレゼンテーションとは、自分の見解を伝え、相手に動いてもらうことです。このように考えると、プレゼンテーションの要素もはっきりしてきます。 まず自分の見解を伝えるということを考えてみましょう。情報発信の基本は、主客のバランスですから、主観としての自分の意見、経験と客観としての事実、事例を相手に伝えることは、絶対条件です。 次に、相手に動いてもらうということを考えてみましょう。動いてもらうということは具体的な行動を起こしてもらうことですから、具体的に動いてもらいたい行動の内容を伝える必要があります。更には動きたくない人を動かす必要も生じます。その際は、動くことによって、どんなご利益(メリット)があるかも伝えなければなりません。 つまり、プレゼンテーションは、4つの要素から成り立っているということです。発信者の気持ち、見解。事実、事例。具体的行動計画、ご利益(メリット)。 そして、一番大事なことは、この4つを伝える伝え方にあるということです。つまり、何を伝えるかではなく、どう伝えるかという伝え方が成否をわけるポイントです。「チーズは何処へ行った?」がベストセラーになったのは、明らかに内容ではなく、内容の伝え方が優れていたからだと思います。 |
<情報の共有化と公平化> 解説18 |
すでに説明したように、組織の中でトップダウンで伝えられる戦略情報は、職員のやる気を左右する情報です。だからこそ、この情報の発信者が心掛けなければならないのが、情報の公平化です。 公平化とは、同一の内容を、同時に、全員に発信することです。例えば、支店としての方針を、支店長が部下に伝える時、山田君という職員には伝えながら、鈴木君には伝えず、その鈴木君が人づてに情報を得た場合、鈴木君は「支店長は山田君を依怙贔屓している」と思うのも当然でしょう。あるいは、山田君には先に伝え、鈴木君には遅れて伝えた場合も、同様です。これでは、鈴木君にやる気が起こるわけがありません。 ピラミッド型の組織をフラット型に改革したものの、その組織がうまく機能しないという企業が多いのは、フラット型では業務処理ができないという理由とともに、せっかく情報の公平化ができる組織に変革しながら、経営トップが公平な情報の発信に、心が至らないせいでもあるのです。 一方、職員ひとり一人の、あるいはチーム単位の、具体的な行動計画(内容)を伝える戦術情報については、その共有化を組織の中で図らなければなりません。情報の共有化とは、いつでも、誰でも、どこででも取りだせる環境を構築することです。チームの中で、誰が何をしているのかがわからなくなっては、メンバーの役割分担や、チーム内での調整、仕事の委任などが不可能となってしまうのです。これではチームとしての生産性も低下してしまいますし、ひとり一人のメンバーの生産性も低下してしまいます。 情報の公平化と共有化が実現できていない組織は、コミュニケーション業務(情報処理)がうまくできていない組織だということになります。それはつまり、仕事の6割以上が情報処理だということを考えれば、ほとんどの仕事において、望むべく生産性を実現できていない組織だということです。 |
<コミュニケーション環境の創造> 解説19 |
コミュニケーションは仕事を上手に進める上で重要な要素であることは既に説明しました。また、成果の出せるチームをつくるにはコミュニケーションの環境づくりも重要な作業であることも説明しました。 ところで、皆さんの職場では、コミュニケーション環境は十分満足の行く状態でしょうか?多分、多くの方が、その評価、判断の方法すらわからないと頭を痛めていることだろうと思います。 コミュニケーションの環境づくりで、大事なことは一つしかありません。それは既にご説明した情報の公平化を実現できるしくみがあるかという一点だけです。 情報の公平化は、「同一情報」を「同時」に「全員」にの3つのポイントがあります。これを実現できる環境があるかどうかで判断・評価をすればいい訳です。 具体的には、朝礼とか全体会議とかは、情報の公平化を実現するしくみです。またEメールも同様に公平化を実現するしくみとして活用できます。 しかし、多くの企業でEメールを導入しても成果の出る強いチーム、会社になったというお話はあまり、聞きません。その理由は簡単で、情報の公平化の道具として活用していないということです。チームリーダーや、トップの方々からの情報発信がなければ、それは、情報の公平化とはいえません。また、情報の公平化は、チーム員の「やる気」を引き出すための概念ですから、朝礼や全体会議をやっても「やる気」が出ないのであれば、やはり情報の公平化は、実現していないということになります。 ボイスメールは、発信者の気持ちが伝えやすく、それがチーム員の「やる気」につながるからでもあります。 |