■□■□ 第3時限 計画をいかに実行し、成果を出すか ■□■□ | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
20 人との関わりと「水路化現象」 計画の実行段階では、人は自動的に安易な方向で意思決定してしまう傾向があります。 水が高い所から低い所へと流れ落ちるような「無意識の回路」に注意しましょう。 |
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この章では、たてた計画をいかに成果が出るように実行するか、についてお話します。 しかし、その前に、一生懸命やっている、実行しているにもかかわらず、成果に結びつかない現実についてみてみましょう。 みなさんは仕事をする際、当然自分の意思で、次は何をやろうか、と決めてから仕事をしていることでしょう。だからこそ次々と行動がとれるのです。 しかし「自分の意志で決める」とはいっても、実は様々なパターンがあります。 一生懸命考えて決定することもあれば、ほとんど無意識の状態で意思決定することもあるでしょう。 これに関連して、タイムマネジメントセミナー受講者の興味深いデータがあります。 セミナーでは、使っている手帳等を見ながら1か月前までさかのぼって、明らかに「自分の意思」で行なった仕事をチェックしてもらい、その投下時間の合計を総労働時間で割ってもらいます。 結果は大体どこの企業に行って調査しても、平均値は10%程度となるのです。 次に、「残りの90%は誰が意思決定しましたか?」と質問します。 すると、たいていの人が、この質問に明確に答えられないのです。 毎日忙しく働いて自分としては精一杯やっているつもりでも、実は意思決定はあいまい。これはいい換えれば、優先順位の決定の過程が不明確なまま仕事をしていたということです。まさに仕事に「流されている」といったところでしょうか。実は、私たちは日常仕事をこなすうえで、このように無意識のうちに意思決定をしていることがよくあるのです。例えば、「まったく新しい仕事」と「手慣れた仕事」があったとしたら、あなたはどちらの仕事を先にするでしょうか。 「嫌いな仕事」と「好きな仕事」があったらどうでしょうか。 「自発的な仕事」と「命令された仕事」ではどうでしょうか。 難しかったり自発的なものは、ついつい後回しにして、簡単な仕事、命じられた仕事に着手してはいないでしょうか。 「重要な仕事」と「緊急の仕事」ではどうでしょうか。 何も考えずに「緊急の仕事」にとびついてはいないでしょうか。 これらの相対する仕事が同時に目の前にあった場合、私たちは日常、無意識のうちに前者の仕事より後者の仕事を先にしてしまうようです。あたかも、水が高い所から低い所へと流れ落ち、やがて一本の水路をつくってしまうかのごとく、私たちの頭の中にも自動的に安易な方向で意思決定してしまう、無意識の回路ができあがってしまっているのです。 成果の出る行動をとるためには、この「水路化対策」が一つのポイントといえそうです。
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21 「優先順位」が混乱する要因に注意! 仕事の優先順位の混乱や、仕事に集中できない状況の原因は一体何でしょうか? 環境や状況の変化、相手の事情、突発の仕事、目標の欠如・・・いろいろ考えられます。 |
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生産性低下の主たる要因に、優先順位の混乱があります。これを別の表現にすると、「今、何を行なうのがよいのか、ベストなのか」の判断ができないことを意味しています。「パレートの法則」をいくら頭で理解していても、日常の業務の中では、この優先順位の混乱が発生します。「二割八割の法則」で仕事をするのはたいへんに難しいことです。さらに追求して考えれば、散漫になって集中でできないことということです。我々の日常業務は、スピルバーグの映画より、ある意味では変化に富んでいます。次から次へと状況は変化します。一つのことに、ある一定の時間(期間)集中することはたいへん難しいのです。では、この優先順位の混乱や、集中できない状況の原因は、一体何でしょうか。様々な原因が考えられます。視点をマクロからミクロまで変化させて考えてみましょう。 まず、マクロの視点では、情報化、国際化、24時間化という時代背景があります。 もともと選択肢の多い時代になってきています。その中から、ベストなものを選択するのはもとより、ベターなものを選択することでさえ困難な時代です。状況の変化が著しく、その状況に合わせようと努力すると、常に軌道修正が必要なこととなるからです。また、我々は、そう思い込んでいます。 次は、仕事そのものの性質による問題です。 つまり、仕事には相手(他人)が必ず存在します。我々の日常業務における優先順位の混乱や、集中できない状況の直接的原因の大半は、他人によりもたらされています。仕事の中断や、突発的に起きる緊急な仕事等、他人がいるから発生する問題です。しかし、仕事には必ず相手(他人)がいなければ成り立たないという事実もあります。その結果、突発の仕事に重点を置く仕事のスタイルに無意識のうちに陥ってしまっています。 三番目は、目標の欠如です。 今日一日の達成目標、今週の達成目標、今月の達成目標が明確になっていないことによる問題です。事前にわかる仕事は、優先順位をつけることが可能です。しかし、優先順位が混乱している人の多くは、事前にわかる仕事の把握も弱ければ、その優先順位付けもしていないことが多い。 四番目は、優先順位そのものの性質による問題です。 優先順位は変化するものであると同時に、一人ひとりによって異なるものです。一般的に期限が近づくにつれ、優先順位は高まる傾向にあります。つまり、緊急性が増大し、優先順位が高まることとなります。また、日常業務を処理するレベルにおける優先順位は、その業務を遂行している各個人がつけることとなります。つまり、同一業務でも、処理する人の置かれている状況や、価値観、性格によって異なる優先順位付けがされるということです。 最後は、人間と時間の関係の問題です。 我々人間は、同時に一つのことしか行えないのがこの世のルールです。聖徳太子のようにはなかなかできません。同時に沢山のことを行なえれば、優先順位の混乱が発生しないのですが・・・。
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22 効果的な優先順位のつけ方を学ぼう 生産性を上げるうえで大事な「全体の二割の仕事の見つけ方」とは何でしょう? 重要度と緊急度に替わる、四つのキーワードを使って、 大事な二割の仕事の見つけ方を身につけましょう。 |
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みなさんは、仕事の生産性を上げるうえで大事な仕事となる、「全体の二割の仕事の見つけ方」を知っていますか? 世にある多くのセルフマネジメントの指南書は、「仕事を重要度と緊急度で分類せよ」と説きます。 しかし「何が重要か」というのは、主観的にしか判断できないことです。 これでは、選択する仕事も人それぞれです。 そこで本書では、「重要度」と「緊急度」に替わる、より客観性の高い次の四つのキーワードを使って、大事な二割の仕事を見つける方法を提案します。 まずは「重要度」に替わるキーワードとしては、 第一は、「自分でやる(自分にしかできない)仕事」、 第二は、「他人に任せてもいい仕事」です。 次いで、「緊急度」に替わるキーワードとしては、 第三は、「今やる仕事」、 第四が、「後でもいい仕事」です。 以上、四つのキーワードを使って、みなさんが今抱えている仕事のすべてを、次のA、B、C、の三つにグループ分けしてください。 Aが「今、自分でやる仕事」、Bが「後で、自分でやる仕事」、Cが「他人に任せてもいい仕事」です。 それでは、大事な二割の仕事はどれでしょう? 多くのビジネス指南書の説く「重要度と緊急度」からすれば、Aの仕事だと考えてしまいませんか? しかし、Aの仕事は、仕事の期限が迫っているゆえに、投下時間が少なくなってしまい、そのため仕事の量か質、あるいは両方が犠牲になってしまいがちな仕事です。 つまり、生産性を落とす仕事となる可能性が大きいのです。 一方、Bの仕事はどうでしょう。 期限が迫っていない仕事であり、時間的余裕があるゆえに、質も量も追求できる仕事、つまり生産性の向上に寄与する可能性の大きな仕事といえます。 みなさんが、自分自身の生産性向上に取り組むときには、このBの仕事をどれだけ多く見つけられるか、さらにコンスタントに行なうことができるかどうかが、大切になるのです。
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23 「事前にわかる仕事」と「突発の仕事」 「突発の仕事」にも優先順位があります。「事前にわかる仕事」に優先順位がつけられるようになれば、 「突発の仕事」にも慌てずに優先順位をつけられるようになります。 |
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朝出社してすぐに、その日にやるべき仕事を書く出すビジネスマンは多い。 書き出せるということは、その仕事を事前に分かっているということです。 しかし、ほとんどの人は、書き出したものすべてをその日のうちに終わらせることはできません。少なくとも定時の就業時間内には終わらない。 理由はいたって簡単です。書き出した仕事が多すぎたということもあるでしょうが、それよりも、書き出したもの以外の仕事やその他のことに時間を使ってしまったからです。 これは就業時間内に、事前にわからない仕事、わからないことが発生したことを意味します。 仕事には、「事前わかる仕事」と「事前にわからない(突発)の仕事」の2種類があり、後者の「突発の仕事」がたいへんくせものなのです。「事前にわかる仕事」はそれに要する時間もあらかじめわかります。反対に「突発の仕事」は要する時間もわからない。計画の立てようがないのです。 いろいろな企業の管理職の声をきくと、「自分の部下はその日暮らしだ」、という人は結構多いものです。この「その日暮らし」の原因が、何を隠そう、「突発の仕事」なのです。 「突発の仕事」への彼らの対処の仕方は決まっています。出たとこ勝負です。その日暮らしとは、突発の仕事が発生するのをじっと待って仕事をする人のこと、といっても過言ではないくらいです。明日のことは明日でなければわからない、これがその日暮らしの基本構造です。 実はここに大きな問題があります。 日々の業務では、「事前にわかる仕事」と「突発の仕事」は交互に不規則にやってきます。 「事前にわからない(突発の)仕事」は突然、緊急の可能性が高い。「水路化現象」を見てもわかるとおり、仕事への重点の置き方は、無意識のうちの突発の仕事中心になりやすい。ここで当然とあきらめるか、それともあきらめずに対処するかで大きな差が生じます。 「突発の仕事」中心のスタイルなら、優先順位の発想も「パレートの法則」も不要です。発声した順にこなしていくだけです。こればかりは計画の立てようがない、そうあきらめた瞬間の「啄木現象」、生産性低下の落とし穴にはまることになります。優先順位の発想や「パレートの法則」を有効に活用するためには、「事前にわかる仕事」と「突発の仕事」が存在することを認識する必要があります。 「突発の仕事」にも優先順位があります。最初がむずかしいかもしれませんが、「事前にわかる仕事」に優先順位をつけることができるようになれば、突然発生する仕事にも優先順位をつけられるようになります。仕事の内容は、重要性を比較できるようになるからです。 また、「突発の仕事」への対処は、仕事を判断する能力を磨く訓練にもなります。 発生と同時に優先順位を判断し、対処に必要な時間を読むことが必要になるからです。このスキルは「事前にわかる仕事」を処理していくうちに身につきます。 そのためにもまず、「事前にわかる仕事」に優先順位をつけるクセをつけましょう。基礎もこなさずにいきなり応用編をやって成功する人など、めったにいないのですから。
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24 重要性と緊急性から優先順位をつける誤り 「突発の仕事」の発生で「重要性」の判断は誤りがり。優先順位の判断基準を、 「事前にわかる仕事」と「突発の仕事」、 「自分がやる仕事」と「他人がやる仕事」の組み合わせから考えてみましょう。 |
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第20節で、成果の出る行動をとるためには、「水路化現象」対策が一つのポイントになることをお話しました。この節では、その中でも特に問題のある重要性と緊急性について考えてみます。 一言で「優先順位」といっても、その判断基準は様々です。 書店に並ぶ100冊を超えるタイムマネジメントの本の多くは、優先順位の重要性や、前出の「パレートの法則」について述べた後、「優先順位のマトリックス」と称して、その判断基準に「重要性」と「緊急性」を挙げています。しかし、これらは、本当に有効な判断基準なのでしょうか? 実際の業務に照らして考察してみましょう。 一般の本の中で語られている「優先順位」のつけ方は、おおよそ次の通りです。 「まず、みなさんの今抱えている仕事を、全部紙に書き出してみよう。次に、それらの仕事を、@重要性・緊急性をもに高いものをA、A重要性は低いが緊急性が高いものをB、B重要性は高いが緊急性は低いものをC、C重要性・緊急性ともに低いものをD、という四つの基準に沿って分類してみよう・・・」
この考え方は、一見、理にかなったもののように見えます。みなさんも、この作業をしただけで、何だか頭のモヤモヤが晴れたような気になるかもしれません。しかし、それも多分、長続きはしないでしょう。なぜかといえば、実際は途中で、上司から声がかかったり、お客様からクレームがはいったり、といった突発業務が待ち受けているからです。こうたびたび突発業務が発生したのでは、せっかく振り分けた優先順位も、すぐに無意味なものとなってしまいます。 では、どこに問題があるのでしょうか? まずいえることは、このマトリックスでは、不測の事態を想定していない、ということです。そもそも私たちは、他人との関わりの中で仕事をしています。これはいい換えれば、当然、自分では把握しきれない事態が起きるということです。ということは、仕事をする際には、突発の仕事への対処も、心得ていなければならないということです。にもかかわらず、前記のマトリックスでは「事前にわかる仕事」のみをリストアップしているところに問題があるわけです。 次にいえることは、この「重要性」と「緊急性」という基準そのものに妥当性がない、ということです。ここでちょっと、先ほどの「水路化現象」の一項目を思いだしてください。 私たちの頭の中には、重要な仕事よりも緊急の仕事を優先させてしまう無意識の回路が存在するという事実。とすれば、私たちは、「緊急性」によって、「重要性」の判断を誤り易いということがいえます。だから、突発業務が発生すると、つい、そちらに目がいって、優先順位を誤ってしまうわけです。 ということは、前述の優先順位のマトリックスでいう、BとCの判断の中に、既に優先順位の落とし穴が潜んでいるということです。これでは仕事がうまくいくはずもありません。 では、どうしたらよいのでしょうか。そこで「仕事の科学研究会」では、優先順位の判断基準を、まず、 イ.「自分か、他人か」、ロ.「今か、後か」、 で分類することにしています。 そして、さらに、突然やってくる仕事を「X業務」として、上記のイとロの基準に従って、優先順位をつけることにしています。つまり、 @今、自分がやる仕事がA、A後でやる仕事がB、B他人でもいい仕事がC、C突然発生して、今、自分がやる仕事がAX、D後で自分がやる仕事がBX、E他人でもいい仕事がCX・・・ という、合計「六つの優先順位」を設定し、Aランク(AおよびAX)の仕事から着手する(下図)。 他人でもいい仕事は、即、他人に委任すればいいのであって、優先順位の判断に、「いつやるか」までは必要ありません。 まずは、「急がば回れ」の精神を持つこと。 いくら突発業務が起こっても、慌てず、騒がず、優先順位をはっきりと見極めてから仕事にかかる余裕を持つことこそが、生産性向上の鍵といえるでしょう。
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25 仕事のタイムログを分析しよう 個人の生産性、組織の生産性の診断に、投下時間の検証をおすすめします。 自分の仕事の進め方、自社の業務のあり方を知るためにも、 一週間程度の投下時間の調査を行なってみましょう。 |
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あなたは日頃、自分がどんな仕事にどれだけの時間をかけているか、知っていますか? 多くの企業で試みられているビジネス・プロセス・リエンジニアリングでは、投下時間の検証が必ず取り入れられています。 その一般的な手法は、一日のうち「会議に二時間」「商談に40分」というように、個別の業務にかけている時間を分析するというものです。 「仕事の科学研究会」でも、もちろん個人の生産性、組織の生産性の診断に、投下時間の検証を提案しています。 ただ、その手法は上記とはまったく違います。 個人の、そして組織の生産性に対し、どのように関与しているかによって仕事をグループ分けし、それぞれのグループで投下時間を調べるものです。 つまり、第24節で述べたA、B、C、AX、BX、CXの六つの仕事の投下時間を調べるわけです。 その結果、それぞれ個人、組織の生産性の現状、その問題点が明白に浮かび上がってきます。 例えば、「仕事の科学研究会」が今までコンサルティングを手掛けてきた企業のデータから得た平均値では、一日の仕事の内訳は、次のような割合となります。 ・AとAXの投下時間が60% ・BとBXが30% ・CとCXが10% あくまで目安の数字ですが、あなたがAとAXに費やす投下時間が平均値よりも多いとすれば、明らかに仕事のコントロールがままならない状態にあることを意味します。 また、BとBXの投下時間が少なければ、将来的に生産性が低下する危険性が高いことを意味します。 もちろん、先に挙げた平均値は、目安にすぎません。 あなたが管理職か、一般社員かによって基準となる数字は違いますし、営業マンか研究・開発担当かによっても違う。企業の診断をする場合も、業種によって基準となる数字は異なります。 ともかく、自分の仕事の進め方、自社の業務のあり方を知るためにも、一週間程度の投下時間の調査を行なうことをおすすめします。
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26 「自分の時間」と「他人の時間」 自分一人の仕事、自発的な仕事の時間を「自分の時間」、他人と共同の仕事、 他人とのアポイントの時間を「他人の時間」と呼びます。 二つの時間のバランスこそがタイムマネジメントの基本です。 |
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私たちのスケジュール帳に書かれているアポイントはどうやって決められているでしょうか。 みなさんのところに、得意先から電話がかかってきたとしましょう。 「○月○日、お時間ありますでしょうか?」の問いに、みなさんはどう対応するでしょうか。 たいていの場合、急いで手帳を広げ、その日のページを確認し、うまい具合に空白ならば、「はい、○日ならいつでも大丈夫です」と、答えるはずです。 すると相手は、「では、10時にうかがってもよろしいでしょうか」と聞き返す。 特に支障がなければ、「はい、10時ですね。分かりました。お待ちしております」といって、電話を切り、おもむろに白紙のページに「10時、A社S氏来社」などと書き込むことでしょう。 こんなことを何度か繰り返すうちに、白いページはまたたく間に埋まっていくものです。 そして気がつくと、「自分の時間」がない、情けない状況にがく然とします。 こうしたスケジュールの決め方に落とし穴があることは、もうみなさんはご理解いただけていると思います。 中にはまだ、「自分のスケジュールは明確な自分の意志によって決めているのだから、問題ない」と反論される方がいるかもしれません。 しかし、考えてください。 今の例を一つとってみても、自分の予定の中でスケジュールを調整しているように見えながら、実は先方からのアポイントによって、一方的にスケジュールが決められていたのではありませんか? この視点から、あらためて自分のスケジュール帳を見直してみましょう。 商談しかり、会議しかり、なんと他人本意で決められた予定の多いことか。 「自分一人の仕事」より「他人と共同の仕事」を優先してしまっているわけです。 これでは生産性向上のキーワードである「開始」が、マネジメントされていないことになります。 なぜ「開始」がマネジメントされていないのか? そのスケジュールのほとんどが仕事の「期限」だからです。 見方を変えると、私たちのスケジュールのほとんどは、「期限」で埋めつくされているのです。 今の例でいえば、「10時来社」は「商談」という他人がらみの仕事の「開始」ではなく、「接待のための準備」という、「他人がらみ」の仕事の前には、必ずといっていいほど、その仕事のために自分でしなければならない仕事があるはずなのです。 っこの事実を考えずに相手のいうままにスケジュール帳を埋めていたのでは、準備の時間が足りなくなり、せっかく相手と会っても成果が期待できないのは火を見るより明らかです。 これでは、何万円もするシステム手帳や電子手帳を使って、他人のためにスケジュール管理をしているようなものです。 さて、どうしたらよいでしょうか。 注目しなければならないのは、「期限」には必ず「他人」の存在が関係する、という点です。 相手(他人)と約束したからこそ、「期限」は生じます。期限が近づくとプレッシャーが高まり、ストレスが増大するのは、この相手(他人)の存在があるからです。さして重要でない仕事なのに、かたづけてしまうまで気分がスッキリしないのも、約束した相手の顔がちらつくからにほかなりません。 このように、相手がある仕事=他人がらみの仕事の場合、私たちは必然的に「期限」を意識して仕事をすることになります。 その結果、重要な仕事を後回しにして、とにかくその仕事に着手する。 「重要な仕事よりも急ぎの仕事」という思考回路がはたらき、優先順位を誤ったあげく元気の空回り、という悪循環を繰り返すことになるのです。 生産性を低下させる要因は、いつでも、どこでもころがっています。生産性を向上させるためのツールであるスケジュール帳の中にそれが最も顕著に表れているのは、たいへん皮肉です。 こうした現象を本書流にいい直せば、私たちの日常は、「ちょっと他人中心になりすぎているんじゃありませんか」ということです。 本書では、この「自分一人の仕事、自発的な仕事のための時間」のことを「自分の時間」、反対に「他人と共同の仕事、他人とのアポイントの時間」を「他人の時間」と呼び、これら二つの時間のバランスをとることこそが、タイムマネジメントの基本であることを提唱します。 ここで、第4節に紹介した「仕事のスペクトル分析」を思い出して下さい。 「仕事のスペクトル分析」では、自分がコントロールする仕事と、他人とコントロールする仕事を対にして、仕事におけるマネジメントの「対象」を七つの要素に分解しました。つまり、仕事の「開始と期限」「質と量」「目標と実績」「責任と権限」「納得と調整」「専門と業際」「判断と規範(ルール)」の七つです。 二つの時間のバランスを取るためには、「自分の時間」は、ここに挙げたそれぞれの要素の前者を、「他人の時間」は、後者をコントロールするよう、心掛ければよいのです(下図参照)。 こんなことをいうと、「そんな雲をつかむような問題に対策なんかあるか」、とお思いの方もいるかもしれませんが、解決策はいたって簡単。 自分の仕事、自発的な仕事のための時間(=自分の時間)を、どんどんスケジュールの中に落とし込めばよい、ということです。 そして、その「自分の時間」の合間に、他人とのアポイントを入れていく。 言葉を換えれば、「他人とのアポイント」の前に、まず「自分へのアポイント」を入れてしまうということです。 そのためには手帳も使わず、記憶だけでというには限界が生じやすい。 タイムマネジメントにおいて、しきりとシステム手帳なり、電子手帳なりのサポートツールをすすめる本当の理由はここにあると思います。 「自分へのアポイント」をスケジュール帳の中に落とし込み、「自分の時間」を確保することは、「開始」をマネジメントし、「他人の時間」に振り回されないための具体的かつ有効な手段になるのです。
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27 スケジュール帳の落とし穴 スケジュール帳のおかげで、仕事の達人になった、時間にゆとりができた話はあまり聞きません。 まず「自分へのアポイント」を記入すること、終了時間を記入することから始めましょう。 |
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仕事を上手に進めたり、時間を有効に使うためのツールとして、すぐに頭に浮かんでくるのがスケジュール帳、スケジューラーソフトです。昨今の電子ツールの普及を見ても、たいていの場合、スケジューラーソフトが組み込まれています。 しかし、こうしたスケジュール帳や、スケジューラーソフトは、私たちの仕事や時間を本当に有効に活用してくれているのでしょうか? 周りを見回してみても、スケジュール帳のおかげで、仕事の達人になったとか、時間にゆとりができたという話は、あまり聞きません。 逆に、その手の手帳やソフトをバンバン使っている人ほど多忙を極め、何もそこまで・・・と思ってしまうほど、時間に追われて仕事をしているように私は思えるのですが・・・。 これでは、まるでスケジュール帳に私たちが管理されているようなものです。 私たちの仕事や時間を管理して、使う者に幸せをもたらしてくれるはずのツールが、逆に私たちから「ゆとり」を奪い、時には、自分自身を見失わせる原因ともなってしまっているのは、なぜでしょうか? 私たちが実際に抱える問題点を明らかにするために、再現イメージを展開してみましょう―。 @A社営業部長より、電話にて、面談の申込みが入る。スケジュール帳を開けると、○月○日の午前中が空白なので、面談の約束をする。 A新商品Bのプロジェクトリーダーより、○月×日の午後にプロジェクト会議を開きたい旨の相談が入る。2時ならOKと返事。 B社長より、○月×日の午前9時半から、商品開発状況についてヒアリングをしたいとの連絡が入る。ラッキーにも空いていたので、秘書にOKの返事。 C得意先C社の担当者より、○月×日に展示会があるので、案内したい旨の連絡が入る。午後1時ならOKと返事。 ―と、こんな具合に、両日のスケジュールは決められていった。 人によって、多少の違いこそあれみなさんのスケジュール帳もこんな形で埋められていくことでしょう。 さて、このスケジュールの問題点は、どこにあるでしょうか?列挙してみましょう。 ・この両日とも、他人からのアポでスケジュールが決まっている。 ・スタートの時間は分かるが、エンド(終わり)の時間は不明のまま。 ・社長からのヒアリングは、優先順位が高いが、他は不明。 ―こんなところでしょうか。 以上の問題に関連して、決定的、致命的な問題が隠れています。 それは、仕事のOSで考えると、「他人と共同の仕事」のみのスケジュールで、「自分一人の仕事」は一切スケジューリングされていないということです。つまり、前記の問題発生の根本原因は、「自分一人の仕事」のスケジューリングをしていなかったからということができます。 スケジュール帳も、自分と他人のバランスを崩すために使われては、成果も効果も出ません。たんなる備忘録となってしまいます。 スケジュール帳の落とし穴とは、「自分一人の仕事」を記入しないこと―。ほどこの一点といっても過言ではありません。
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